2004年 07月 03日
ここのところ、毎日「月の砂漠」である。朝っぱらから、夜寝るまで。 去年から突然ピアノを始めたパラサイト先のマダム(つまり母ですけど)が、明日ピアノの発表会なのだ。その課題曲が「月の砂漠」で、朝な夕なに日々特訓している。ゆえに、ここのところ目覚め曲は「月の砂漠」なのである。朝なのに! この曲はなんたって暗い。暗すぎる。しかしこの世代(昭和10年代前半生まれ)は、なぜだかこの曲が大好きみたいだ。今流行りの「大人のピアノ教室」的なテキストにも、控えめながらしっかりと収録されている。 この曲は終戦直後、当時の超人気天才少女歌手「かわだまさこ・たかこ姉妹」が歌い大ヒット、ラジオ放送で毎日聞いていた全国のよいこたちの心をそのエキゾチックな旋律でわしづかみに。(と、ラジオ深夜便で言ってました。) うちのマダムも若い頃、幼い私の枕元で歌って下さったものだが、はっきり言ってかなり怖かった。歌い方が、とかではなくて、本質的にこの曲全体このメロディーが持っている暗さというか不吉さというか寒々とした風景感というか…。 歌詞をよくみてみよう。 まず、いきなり「月の砂漠をはるばると〜」である。このワンフレーズだけで、浮かぶ風景はかなり孤独だ。もちろん月面の砂漠ではない。そこを行く2頭のラクダ。乗っているのは、金の鞍と銀の鞍にまたがった王子様とお姫様。二人はおそろいの白い服を着ている。月がこうこうと輝く訳だからきっと夜であろう。夜の砂漠をたった二人で。金銀つけて。しかも丸腰、かなり危険!(今ならテロリストが即誘拐) 今では1番かせいぜい2番くらいしか歌われないこの曲は、実は4番まである(って知ってました?)。以下同文的な静々とした情景描写が2番、3番と続く。ま、それは童謡的・絵本的でいいんだけど。しかし問題は4番である。 「広い砂漠を ひとすじに 二人はどこへ 行くのでしょう おぼろにけぶる 月の夜を 対のらくだは とぼとぼと 砂丘をこえて ゆきました だまってこえて ゆきました」 …本当にこの二人、どこへ行くのか。恋人同士の二人旅につきものであるはずのウキウキ感が全く感じられない。それどころか、ひと気のない月の砂漠をとぼとぼと静かに行く恋人たち。その行き先に連想されるのは…『死』。 でしょう、やっぱり。どういう事情か知りませんが、この人たちこれから心中でもするつもりなんでしょーか。砂漠の真ん中でばったり出会っても、人目を忍ぶようななんかちょっと訊けない切羽詰まった感のある二人。 これならこの曲調なのも納得っていえば納得。当時の時代の退廃ムードって言うのもあったんでしょうけどね(でもよいこたち、この情景をどう思ってたのかしら)。それにこの砂漠、どう考えてもアラブじゃなくて和風の湿り気がある気がする。そもそも砂漠がおぼろにけぶるか? とりあえずマダムには、ピアノの発表会が終わったら、もうちょっと朝向きの曲をお願いしたいと思っています。たのみます。 (大正12年・作詞:加藤まさを/作曲:佐々木すぐる)
by chiori66
| 2004-07-03 23:01
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